ネコって、いつからヒトと暮らすようになったんだろう……?
あるとき、ふとそんな疑問がわいてきました。
私たちの猫 = イエネコ の祖先が、DNA解析によって 「リビアヤマネコ」と証明されたのは、2007年のことです。
リビアヤマネコは、今も北アフリカ~アラビア半島で、野生の姿として見ることができます。
大きさはイエネコとそれほど変わらず、似たような体形をしていますが、骨太で強そうです。
この野性味たっぷりのネコが、いったい、いつ、どうやって人間のパートナーになったのか???
この謎を解くために、猫の歴史をたどってみます。
ネコとヒト 出会いの真実
リビアヤマネコがアラビア半島の砂漠に出現したのが今から約13万年くらい前。
30万年前にアフリカに誕生した、ヒトの祖先”ホモサピエンス”は、13万年くらい前には、アフリカからヨーロッパ、アジア、そしてアメリカへ移り住み始めました。
当時はまだ、ネコとヒトとがつながる証拠はなく、別々の暮らしをしていたようです。
リビアヤマネコは、砂漠のウサギやネズミ、ヘビ、サソリなど食べて生活していました。
リビアヤマネコが、トラやチーターに近いと思うと、かなり凶暴な肉食動物をイメージしますが、写真の通りサイズ的にも現代のイエネコとそれほど変わらず、他のヤマネコなどと比べると、穏やかな性格だったようです。
そこから時を経て……
15年ほど前の研究では、ヤマネコとヒトが出会って生活を始めたのは「3600年前の古代エジプト」というのが通説でした。
ところが2004年の研究で、地中海の東にあるキプロス島(キプロス共和国)の遺跡から『約9500年前』の猫の骨が見つかったことが発端となって、さらに遡ることになったのです。
キプロス島には、もともとの野生の猫は存在せず、しかも大陸から60~80km離れていることから、人間が家畜として連れて行ったと考えられ、しかも見つかった猫の骨は、装飾品とともに人間の足元に寄り添うように埋葬されていたことから、9500年前には、すでにヤマネコは人間と暮らしていたと考えられるようになりました。
参考:nature|Oldest Homo sapiens fossil claim rewrites our species’ history、Science|J.-D. Vigne|Early Taming of the Cat in Cyprus
その後2007年の論文で、現在のイエネコと中近東を含む3大陸に生息するヤマネコから採取したDNA解析によって、リビアヤマネコがイエネコの祖先であることが判明し、さらに2017年に発表された論文では、人間と出会った場所は、アラビア半島の付け根のあたり・・・ペルシア湾からチグリス・ユーフラテス川を遡り、シリア、イスラエルを通ってエジプトまでの範囲でネズミなどの駆除で飼われ始めた、とされています。
参考:Nature|Claudio Ottoni|The palaeogenetics of cat dispersal in the ancient world
9500年前、エジプト文明やメソポタミア文明が栄えるもっと前、新石器時代のことです。
穀物を食い荒らすネズミに困っていた人間と、ネズミが大好物のヤマネコはお互いに持ちつ持たれつの関係で近づいていきました。
ヒトと暮らすために「進化」したネコ
あるときリビアヤマネコは突然変異の一つである「幼児化(ネオテニー)」します。
「ネオテニー」とは、子猫の特徴を保持したまま成熟することを言いますが、ざっくり言うと、大人になっても子供らしさ、可愛らしさを残している、みたいな感じです。
急にギューッと抱きしめたくなるあの可愛らしさ。
その「進化」が人間に近づいた、大きな要因と考えられています。
もともと単独で行動するヤマネコがニャーと鳴くのは、母親に食事をねだるときだけです。
それがこの進化によって、大人になってもニャーと鳴いて、人間に食べ物をねだったり甘えたりするようになったというわけです。
他にも、毛布のフミフミやゴロゴロするのもネオテニー行動とされています。
そんなヤマネコを人間は愛おしく思い、そばに置いて世話をしようと思ったのです。
参考:齋藤慈子上智大学准教授|なぜネコは伴侶動物になりえたのか
神と崇められるネコ
進化して獲得した「可愛らしさ」、そしてネズミやヘビまでも駆除する技術を武器に、ついにヤマネコは約5600~5800年前に古代エジプトで「家畜化」されたと考えられています。
エジプトにはリビアヤマネコの他にジャングルキャットなども生息していましたが、ネオテニーによる変異で穏やかになったリビアヤマネコが、エジプト人との暮らしに溶け込みやすかったようです。
その証拠として、2013年、エジプトナイル川西岸の古代都市「ヒエラコンポリス」での発掘調査によって、見つかった猫の骨が「リビアヤマネコ」であり、しかも下あごの骨の特徴から、家畜である可能性が高いことがわかっています。
人間との生活がますます近づいて行ったヤマネコは、猫が好きすぎるエジプトの人々によって、3500年前の新王朝時代、ついに神とまで崇められるようになります。
猫を殺したりいじめたりすると人間が罰せられるくらい、猫の地位が上がったのです。
人間との距離を縮め、社会性を身に着けたヤマネコは、次第に「イエネコ」になっていきました。
イエネコが日本に来たのは平安時代とされていましたが、2011年に長崎県壱岐島のカラカミ遺跡から発掘されたイエネコの骨から、約2000年前の弥生時代であることが確実となりました。
そこから2000年。
日本でも、ネズミを退治するパートナーから、ペットへ。
参考:More evidence for cat taming at the Predynastic elite cemetery of Hierakonpolis (Upper Egypt)
不思議な習性とツンデレの理由
昔を思い出した猫は、ときおり野生の顔を見せることがあります。
ゴロゴロ喉を鳴らす猫を優しくなでていると、突然「フーッ!」と「野生スイッチ」が入ることありませんか?
急にかみついてきたり、引っかいたり、逃げたり。
これは「愛撫誘発性攻撃行動」といって、猫の許容時間を超えて撫でたり、強すぎたり、猫の嫌いなところを撫でることで、そのストレスから「野生の姿」に戻ってしまいます。
こんな習性からか、ついさっきまでゴロゴロ言ってたのに、急に態度が変わるので「ツンデレ」と呼ばれるようになったようです。
ただ、この行動は、猫のことを理解すればなくすることができます。
猫が嫌がるタイミングは猫のしっぽを見て、「タンタンタン!」と小刻みに叩き出しら「もう結構です」の合図。
猫同士は、お互い舐められたくないところは避けて、グルーミングしあっています。人間も、猫の嫌なところを理解しなくてはいけません。
逆に、ハイになって駆けずり回っていたのに、滑ったり転んだりすると、何事もなかったかのようにあくびしたり。
これは、単独で狩りをしていたヤマネコのとき、狩りの成功率は10%程度と低く、失敗することの方が多いのですが、そのときに失敗を忘れるように、あるいは自分を慰めるように、毛づくろい、あくび、背伸びなどをして気分転換をします。
これは「転位行動」といって、本来の目的とは関係なく解発される行動をとることを言います。
ついつい笑ってしまうような、猫のかわいらしい行動のひとつです。
参考:frontiers in Veterinary Science、Tri-County Animal Hospital|Veterinary Behavior Articles
まとめ ネコとの付き合い方
少しずつ人間社会に馴染んできた猫ですが、それでもいまだに触られるのが苦手なようです。
ある研究では、我慢してなでられる猫はストレスホルモンの値が高くなる、ということがわかっています。
猫が砂漠に現れてから、人間と暮らしはじめた歴史と行動を理解する。
猫がなでろと言ったらなでる。やめろといったらやめる。
これが猫と長く付き合うためのコツではないでしょうか?
もし、猫に好かれてない、なんとか仲良くなりたい!と感じる方は、ぜひこちらの記事をご参考ください。
関連記事:猫に好かれるための7つの習慣
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